TVチャンピオン2『家具職人選手権』出場レポート

(ミクシー日記を転載)
その3
stage1の課題を制限時間内に終わらせて審査に進むことができたのは7人。 わたしの後、続々と完成したようです。トイレに行ってたりして順番は知らないけど。(余裕!) 残る1人は座面を付け損ないました。 脚部は出来ていたのですが現物合わせでなく、座面裏にきっちりと直角を計ってつけた印に従ってホゾ穴をあけたためホゾ先をいくら押し込もうとしてもはまらないのです。 脚部の組み立てが正確ならばその方法もよかったでしょうが、大急ぎで作って各部のカネ(直角のこと)が出ていないわけですからうまくいく可能性は低いのです。 その人もお爺さんの代からの家具職人、そんな男が「あと3分しかありません。大丈夫ですか?」「あと30秒!」「サン、ニー、イチ、ゼロ、時間切れです!」と叫ぶゆ〜じさんの横でもがき力尽きる様子は痛々しくとても気の毒でした。 脚部と接続されることなく放置される座面。落胆する彼に群がるカメラ。 番組的にはおかげで時間内に仕上げることの難しさを伝えることができるわけですから、そのまるで死人にムチ打つような撮影も仕方がないのでしょう。しかしむごい光景だと思いました。 「審査の前にお昼にします」とディレクター。ロケ弁が配られます。共に戦った連中と車座になったものの「ノド通らないっすね」「先に審査してくれたほうが気が楽だよ」「殺すなら早く殺してくれって気分」と顔を見合わせます。 結局わたしも2、3度ハシをつけただけでフタをしました。 自分の椅子は強いと信じていたけれど、派手に1番で作り終えたのと強気なことを口走ってしまったことがあってこれでもし審査で早々に壊れでもしたら視聴者にかえって「コイツは口先だけ、早いのは仕事が雑なせい」とあざ笑われてしまいます。 そんな印象を与えてしまってはこれから仕事を続けられない。そう思うと審査が無事終わる、つまり最低限ある程度の強度を示すところまで壊れずに残るという結果が出るまではとても気が抜けなかったのです。 我々が生きた心地のしない時間を過ごしている間にも倉庫中央に設けられたスペースではそれぞれが作った椅子の撮影が行われています。 完成しきれなかったあの椅子も。番組を作るためには様々なカットを用意しておくんだなあとぼんやりと見ていました。 しばらくして審査開始の合図。 作業スペースとは倉庫の対角線上に位置する審査会場用にセッティングされたコーナーに移動します。 立ち位置を指示されたり審査の流れの説明を受けます。正面からカメラと照明が我々を狙い、その横で多くのスタッフが見守っています。 ディレクターの「では本番いきま〜す。ゴー、ヨン、…」の声で撮影開始。余談ですが撮影開始のカウントダウンでは3、2、1は声に出さないんですね。撮影テープに声が入るのを防ぐためでしょう。 ゆ〜じさんが高らかに審査開始を告げると大きな太ったあんちゃんが4人つぎつぎに舞台袖から跳ねるようにして勢いよく飛び出してきました。 黄色いヘルメットに白いTシャツ、黒タイツ。同じ太っちょでも相撲取りとはあきらかに違う、しまりなく垂れた腹。妙に楽しそうな笑顔。よくまあこんな連中を集めたなあと絶句するような光景です。 椅子を完成させた7人を4人・3人の2組にわけて1組ずつ審査を行います。わたしは第2組となりました。太っちょが座った椅子を床ごと揺らし、椅子が1つ壊れるごとに時計を止めます。その時間が当人の持ちタイム、もっとも長い2人がstage2へ進みます。誰の椅子にどのあんちゃんが座るかは真ん中を筒で隠した4本のロープの片方をあんちゃんが、もう片方を出場者が握りおもむろに筒を開いて同じロープを持っている同士をペアにするという方式で決めます。視聴者を楽しませる趣向を凝らしてるなあと思いました。 ゆ〜じさんが仕切って最初のペアが決まりました。 いよいよ審査開始です。第1組の椅子をかかえたあんちゃんが装置にあがります。 製作者は後ろの壇に横に並んで立って運命の瞬間を待ちます。揺らす前にまずはふつうに座って耐久性を調べます。 壊れず30秒もてば床を揺らしはじめるというルール。経過時間を示す電光掲示板が30秒を表示したところで「では揺らしてくださ〜い!」とゆ〜じさんが合図をして床が動き始めました。 はじめゆっくり、徐々に激しく。大きく揺れるあんちゃん、きしむ椅子。誰もが固唾を飲みます。 見る間に1つの椅子がゆがみはじめました。 事前の説明でスタッフから「中途半端に壊れることはありません。 我々がテストした時にはいったん壊れはじめたら一気にグシャッといきました」と聞いていたとおり、開始50秒つまり揺らしはじめて20秒で1つ目の椅子が体重120キロの巨体の下敷きとなりました。 呆然とする製作者。関西から参加した男です。撮影前夜、前泊のホテルの駐車場でわたしとハチ合わせになり挨拶を交わした仲。昼の弁当も隣り合わせで開きました。その彼がまっさきに脱落です。 ゆ〜じさんに敗戦の弁を求められた後は装置上で無残な木片と化した椅子を自ら片付けさせられて退場。なんという屈辱!その様子を舞台横の床に座って見守るわたしは数分後は我が身と思うと恐ろしくて身震いしました。 残るは3つ。審査を再開して5分ぐらい経過したときでしょうか。1つの椅子が悲鳴のような音を立ててつぶれました。 この椅子の作り手は過去にTVチャンピオンで準優勝したことのある強者です。にもかかわらず…。う〜む、やはりこうして次々に壊れるのかと誰もが感じます。 あとは長野で注文家具を作っている強面の職人と宮城からきたこの道30年という大ベテランの2人が作った椅子。再び床が揺れはじめます。 ところがこの2つ、いっこうに壊れそうにありません。絶対壊れると言われていた10分を経過。 むしろ前に後ろに揺れ続けるあんちゃんが心配になってきました。「椅子より先に人間が壊れそうです!」とゆ〜じさんも興奮気味。 「今日は何を食べてきましたか?」とマイクを向けます。「ハンバーグです…」とあんちゃん。こりゃ吐くぞ〜、その光景を目の当たりにするのかと覚悟しました。 開始から16分ほど経ったときです。宮城のベテラン職人の作った椅子のホゾがはずれてきたのがはっきりと見てとれます。 こりゃきたぞ、いっちゃうぞと見ているうちにバキッという鈍い音とともに押しつぶされました。 このときの会場の雰囲気としては「壊れちゃったけどよくぞいままでもった」というものでした。 この床の揺れ具合しかもこの巨漢が座って16分も持ちこたえるなんて実にたいしたもの、この人の記録には及ばないかも知れないとわたしも思いました。隣りで出番を待つ仲間も同じことを言っています、「こりゃすごい」と。 しかし本当にすごいのはいまだビクともせず装置の上に残っている椅子です。ホゾが全然ゆるんでない。開始直後から変化が見られないのです。このおやじがstage2に進むのは間違いないと思いました。 椅子が壊れるまであくまで揺らし続けるというのが審査規定、再び床は揺れはじめます。ゆ〜じさんも終わりの見通しがつかなくて戸惑っている様子です。 「この椅子は壊れるのでしょうか!壊れそうにありません!」と実況します。 ところでこの椅子に座るあんちゃん、かれこれ20分近くもまるで波乗りサーファーのように身体の動きを揺れにあわせてる。うまい。心配してマイクを向けても「大丈夫です」と元気な答え。確かにこの男は吐きそうにない。 とすればいったいいつまで揺らし続けるのか。想定外のなりゆきにディレクターらスタッフが集まってひそひそと協議をはじめました。 それでもなお床は揺れ、あんちゃんも揺れ、後ろの壇上で長野のおじさんはひとり立ち続けています。 袖で待つ第2組の3人はこの時点でもう誰もこの人にはかなわないと感じていました。延々と続くこの過酷なテストに耐えているこの椅子の意味が家具屋にはよくわかります。これは凄すぎると脱帽しました。 開始から25分、ついにゆ〜じさんが「30分経過した時点でゴールとします。もし次の組で30分持ちこたえる椅子が2つ以上あった場合は改めて審査することにします」とルール変更を発表しました。 その判断に誰もが納得する空気がそこにはありました。そして29分が過ぎ、いよいよ開始から30分のカウントダウン。ゆ〜じさんの「サン、ニー、イチ、ゼロ〜!30分経過しましたので揺れを止めてくださ〜い」の合図とともに満場の拍手拍手拍手。 誰もが手を叩いておじさんを称えます。そこに「いったん休憩にしま〜す」の声。 長くなったので続きはまた。
日記はこれで終わりです。
放送内容と異なる部分もありますがこれが真実です。
この後第2組の審査があり、わたしともう1人が見事30分の振動に耐え、放送にはありませんでしたがstage2に進む人間を3人から2人に絞るための延長戦が行われました。 確実に1人を落とすべく地震発生装置の出力を最大限に上げて揺らすことになりました。 事前に試運転をしてみせてくれたのですがその勢いたるや相当に激しく装置が悲鳴をあげます。その様子を見た誰もがこんどばかりは間違いなく決着がつくと思いました。 しかし結果はと言えばその過激な延長戦を全員がさらにまた30分間しのぎ、これはキリがないとスタッフに思わせるに至ってついに3人とも次のstageへとコマを進めるという方針転換となったのでした。

stage2においても画面に映らなかったドラマがありました。そもそも現場に集合したのが午前7時、それからstage1の撮影があってstage2がはじまったのが夕方、急きょ示されたテーマに沿って椅子を作ること6時間、そして審査員の旗上げが行われたのは日付の変わった午前1時、後片付けをして会場を後にしたときにはもはやわたしに体力は残っていませんでした。

決勝で戦った2人は精もコンも果てたことだろうと想像します。この番組、出場者はもちろんTV制作スタッフにもタフさが求められるということがよくわかりました。 次のチャンスにむけてそんな強さを身につけたいと思います。

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